行ってよかった。
続けてくれてよかった。
ただ彼らに言いたいのは、ごめんね、ありがとう。


オーラルが遂に武道館かあ。
最初の知らせを目にしたときは純粋にこう思った。各地のロックフェスで狂乱しているキッズたちが、やっとオーラルを武道館に連れてきてあげたんだなあ。こういう風にまるで他人事だった。発表されてしばらく経ってもなおこのような心持ちだったので、最初の段階ではチケットを取りそびれた。だけど、私以外のキッズたちが行くんだろうと、それもいいだろうと思っていた。

趣味:フェス、と言っていた時期から遠ざかって2年が過ぎようとしている。その間に彼らは急速に求心力を増し、「いつかは必ず」と目指していたメインステージに名を連ねることが増えた。それはすなわち私の好きという力なんて影も形もなく、フェスキッズたちの力だ。その力がワンマンライブにおいても結実し、日本武道館へと晴れて足を踏み入れることができた。

私が前回行った彼らのワンマンライブは、山中が歌えなくなったZepp DiverCity Tokyoだった。
THE ORAL CIGARETTES、ファンに支えられ完走したDiverCity公演 - 音楽ナタリー
この日から彼らのワンマンに足を運ばなくなった理由は、最後に歌われた「エイミー」がとても苦しく、この日のこの場所に居合わせこの歌を聴いてしまったことに対し、後ろめたさや罪悪感、傷にも似た感情を抱いてしまったことだった。また、私ではないキッズの誰かが彼らに力を貸したいと思うだろうと思ったからだ。メディアにそのストーリーを取り上げられることにより興味を持つような、ハイエナの餌食にされることが死ぬよりも堪らなかった。(余談だが這い上がることを美談に仕立てあげるメディア自体にも辟易したので、残念ながらその時期から音楽雑誌は殆ど購入していない)



そんなバンドストーリーがなくても音楽がしっかりとよいのに、そんなストーリーがなくてもライブバンドとしてかっこいいのに、と、そんな余計な味付け無しに彼らが発見されたかった。だけどそれはもう無理だった。何故なら彼らは既にプロだった。ゆえに瞬く速度でその音楽ニュースは広まっていった。
半年後に開催されたZepp DiverCityでのリベンジライブのチケットは持っていた。しかしながらチケットを握る手は震え足がすくみ腰が引け、とうとう目撃することができなかった。どのようなリベンジになっても自分が見届けよう、という純粋な思いよりも、彼らが複数の好奇の目に晒されることが押し潰されるほど恐ろしかった。

いま振り返ると、あの頃は完全にあのバンドに恋していたんだろうなと思う。恋をすると彼になりたいと思う。彼が受ける傷は自分のことのように痛くなる。できることなら代わってあげたいと思う。だがバンド相手ではそんなことはできない。そのためその場を観ない、居合わせないようにしよう、という無責任な選択をとってしまった。
彼らに対して負い目がなかったというと嘘になる。たぶん、だから1年半もワンマンに行かなかったのだと思う。


そんな状況でささやかに過ごしていた折にワンマンに行く決断をしたきっかけは、今月リリースされた「ONE'S AGAIN」を聴いたことだった。この1年半というもの、「狂乱Hey! Kids!」や「DIP-BAP」、「カンタンナコト」などのオーディエンスと一体感を持って盛り上がることのできる曲を多く世に出していた彼ら。フェスを主戦場にして戦っているのだからいまの作風がこうなるのは仕方ないと静観していた。
しかし「ONE'S AGAIN」はこれまでオーラルが世に提示してきたどの歌とも違う。デビュー曲の「起死回生STORY」が挑戦状だとしたら、「ONE'S AGAIN」はれっきとした覚悟の狼煙だ。この先見据えている景色に明らかに変化が訪れている。この曲をリリースする彼らなら観れるし、率直に観たいと思った。



武道館でのキラーチューン祭りは、2013年からの彼らのヒストリーを追うスタイルだった。2013年「Mr.ファントム」、2014年「起死回生STORY」という代表曲を繰り出しながら、一転「2015年は辛い記憶のほうが多い」と吐露し始める山中。私はあの日を思い出してしまいずっと聴くことのできなかった「エイミー」を何度聴きたくて、何度この日を無意識に待っていたんだろうって気付かされた。
「誰にでも忘れたい過去がある、誰にでも消したい過去がある。でもその過去があったからこそ今の自分がいる。自分の人生を肯定してあげてください」という過去の自分に言い聞かせるような山中のMCのあと、武道館での「エイミー」が始まった。季節が過ぎて僕のことを本当に思うのなら今更だって構わない小さな手を掴むよ、というフレーズに、季節を幾つも素通りしてしまった私は本当に申し訳ない、隠れたい、顔向けできないような気持ちでいっぱいになってしまった。だけどそれと同時に、今度は彼らの歩みを近くで見届けたい、その気持ちも再び芽生えてきたことを確認した。

ボーカルの声が万人に受け入れられるかなんてどうでもいい。そんなことより私はその声が聞きたい。そんなことをいつかの昔も、好きなバンドに対して思ったことがある。

私はまた恋をするのかもしれない。
今度は無邪気にてっぺんを狙う計算高いやんちゃ小僧たちではなく、「ONE'S AGAIN」という、この先に起こる未知のすべてを引き受ける覚悟を歌うバンドに。